仕事が終わり、私はいつもの満員電車に乗り込み家路へと向かった
明日は休み
仕事終わりの金曜日
そう、この時間
私はこの時間が一番大好きだ
この時間から、サザエさんとじゃんけんをするその時間まで
何をして有意義に過ごそう・・・
そんなことに思いを馳せながらうつらうつら
夢に落ちようとしたまさにその刹那、鼻に違和感を覚えた
左の鼻の少し奥に、しこりのようなものがある・・・
そのしこりは、遠慮がちに私の鼻を刺激していた
人が入っていると分かっているトイレの扉を叩き、
中で用を足している人を何気に急かすかのように
(たとえ話が上手くなりたい今日この頃)
この刺激の元は・・・
鼻くそ・・・
まごうことなき鼻くそ・・・
都会の汚れた空気の中で
少しづつ、しかし確実に
埃をため大きくなっていった鼻くそ
雪の下で春を待つ新芽が
日光を集め、少しずつ、少しずつ
大きくなっていくがごとく
成長していった鼻くそ
間違いなく鼻くそ
まぎれもなく鼻くそ
must be HANAKUSO
このこそばゆい刺激をすぐにでも取り除きたい
私は鼻をほじりたい衝動に駆られた
しかし今は満員電車の中
周りに多くの人がいる
ここで無防備に鼻をほじるわけにはいかない
ここで鼻をほじるは、パラシュートを付けずに
スカイダイビングを行うと同じで死に等しい
どうするか・・・
多分3秒位、死に物狂いで考えた
名案が思い浮かぶ
手順はこうだ
①次の駅で降りる
②トイレに行く
③大の方(洋式便所限定)へ行く
④扉を閉める
⑤鼻をほじる
誰もいないその空間で
気兼ねなく鼻をほじろう
とめどなく鼻をほじろう
そう、飽くまでとめどなく。。。
我ながら名案
段取りに落ち度は無し
段取りさえ上手く組めていれば物事は上手く運ぶものである
(イレギュラーさえなければ)
段取り8割、行動はわずかの2割・・・
・・・と、昔の人は上手く言ったものである
そのようなことを考えているうちに電車は駅に着いた
電車の扉が開くと一目散で駆け出しトイレに向かう
ゲートは開いた!あとはトイレというゴールを目指すのみ!
思いはただ一つ
いち早くこのしこりを取り除く
この刺激から解放される
ただそれのみ・・・
しかし非情にもトイレの前には長い行列ができていた
まるでたまごっちを買い求める群衆が作り出す長い行列
※若い人は知らないかもしれないが、昔はたまごっちに行列を作ったものである
ほじるをあきらめるか
素直に並びトイレに入るを待つか
今ここで鼻をほじるか
どれを選ぶにしても、ベストな選択ではない
四面楚歌
すぐに別の手を考える
この救いようのない状況を打破できる一筋の光は無いものか
あたりを見回すと大きなコインロッカーが目に入る
「あれほど大きなコインロッカーの裏であれば・・・」
間違いなく死角
大都会が作り出した防空壕
ここであれば間違いなく。。。
ほじれる
我ながら名案である
すぐにコインロッカーの裏へ向かう
案の定そこには一人もおらず、私がここへ来るのを待っていた
という様な、歓迎する空気さえ漂っていた
ここであれば誰にも見つからず鼻をほじることができる
気兼ねなく鼻をほじることができる
駅にある大きなコインロッカーの裏に行きなさい
その裏で鼻をほじっている男の人がいれば・・・
その人があなたの運命の人です
そんな占いを雑誌か朝のテレビかで見た人がこの世に居なければ
まぎれもなくこの場所で
ほじれる。。。
私は右指の人差し指を
慎重かつ確実に左の鼻の穴へ近づける
至福の時
この瞬間・・・
まさにこの瞬間が、私が一番好きな瞬間かもしれない・・・
しかし、右手の人差し指がまさにその穴へ潜り込んだ刹那
大都会のオアシスともいえるこの空間に
招かざる客人が迷い込んでくる
綺麗な女性
北川景子似で尚且つおっぱいの大き(ry
やばい、見つかった・・・
が、時すでに遅し
右手の人差し指は鋭く、温泉を掘り当てるかのように私の左の鼻の奥を抉っていた
しかしその女性(北川景子似)は軽蔑するような眼差しを私に与える訳でもなく
ただただうっとりとこちらを眺め立っていた
まるで運命の人を眺めるかのように
運命の人・・・
ぼそっとその女性(北川景子似)は呟いた
そう、彼女こそ
駅にあるコインロッカーの裏に行きなさい
その裏で鼻をほじっている男の人がいれば・・・
その人が運命の人です
そんな占いを雑誌かテレビかで見た人だった
運命の人とは、足音無く
唐突に訪れるもの
でも私は妻子持ち、そんな事はゆるされないのです!!
断じて!!
そんな夢をうつらうつらしながら電車の中で見た
ちょうど「断じて!!」と断りを入れたところで目が覚めた
ロッカーの影で鼻をほじっているのを見られようものなら
汚いものを見るような眼で見られること請け合いである
こんな夢を見るなんて、疲れているのだろうか。。。
電車が駅に着くと、私は静かに電車から降りた
相変わらず都会は世知辛い
だが幸運にも鼻に違和感はない
それでいい
駅にあるコインロッカーの裏に行きなさい
その裏で鼻をほじっている男の人がいれば・・・
それが運命の人・・・
そんな占いがあったとしても
鼻をほじる機会なんて私にはいらない
それでいいのだ